思いつくままにⅢ（41～60）
世界中の人々が幸せになれるよう
力を貸してね
４１ 「大学卒って、アホだな」
おっちゃん、とうとう戦争が始まっちゃったよ
どんな理由があろうとも
人と人との殺しあいはダメだということはわかるけど、
私、イラクとアメリカの関係がよくわからない
カリエスで寝たきりになって
小学校４年の途中からから学校に行っていないおっちゃんは、
「大学卒ってアホだな」って言いながら
国際政治や関係について
わかりやすく解説してくれたよね
新聞の政治欄や、「週刊朝日」や、単行本や
むずかしい国際関係論をよく読んでいたおっちゃん
「大学卒はアホだな」って言っていいから
今の国際関係を
わかりやすく解説してよ
何でこんな戦争になっちゃったのか
わかりやすく教えてよ
(2003.3.22)
４２ 連帯感
あの日は台風の影響で、
朝から雨が降っていた
今日も見舞いは休みと決め込んで
昼寝をしていた私に届いたのは
「ご主人が透析中に意識不明になりました
すぐに来てください」という
病院からの電話
すでに雨はやみ
私はタクシーを飛ばして病院に急いだ
脳梗塞と診断され
人工呼吸器をつけられ、
セデーションをかけられ
「今晩すぐにどうこうということはないでしょう」と言われて
私は自宅に戻った
眠れぬままにつけたラジオで
わけのわからない数字をアナウンサーが読み上げる
起き出してテレビを見て
初めてニューヨークの惨劇を知った
今この瞬間
世界中の多くの人が愛する人の身を案じていると
不思議な連帯感に包まれた私
２００１年９月１１日の
長い長い１日のしめくくりだった
（2003.3.23）
４３ ２００１年９月１１日
あの日
ニューヨークに不穏な「気」が立ちこめた
その気がいま
世界中に立ちこめようとしている
愛する人の身を案じる気持ちが
愛する人の死を悲しむ気持ちが
怒りと憎しみに変わらないよう
愛する人の身を案じる気持ちと
愛する人との別れの悲しみが
「平和への力」に昇華されるよう
おっちゃん
そっちの世界から力を貸して！
（2003.3.23）
４４ タイムリー
おっちゃん
おっちゃんはもしかすると
すっごくタイムリーに
この世とさよならしたのかもね
支援費制度でヘルパー派遣が削られ
障害者生活支援事業の国庫補助がゼロになり
何のためにこんなに切りつめられるのかと思っていたら
戦争が始まった
日本は軍事力は出さないといいながら
お金で協力するという
こんなひどい時代がくるなんて
おっちゃん
ほとんど想像してなかったよね
こんな時代を知らないうちに
おっちゃんはきっと
タイムリーにこの世とさよならしたんだね
（2003.3.23）
４５ ずるいよ
私たちは
事業所経営とか
労働基準法とか
会計監査とか
むずかしいことは何にも知らないまま
ただただ、障害を持った私たちが
差別や否定をされることなく
ありのままで大切にされ
誇りをもって
地域で生きられるような
そんな社会をつくりたかっただけ
夢と理想を行動力に変えて
突っ走ってきたんだよね
それが、いま
委託事業を受けているゆえに
法律でがんじがらめにされ
自由に言いたいことも言えなくなり
骨抜きにされて
「行政の使いっ走り」にされかかっている
そのツケが
この国の障害の重い仲間たちに
そして地球の向こう側の
いたいけな子どもたちに
向けられようとしている
夢と理想を実現しつつあると
信じられる時代に逝っちゃうなんて
ずるいよ、おっちゃん！
（2003.3.23）
４６ あの時代に戻れないのなら
夢と理想だけで突っ走れた
あの時代に戻れないのなら
「法律」や「一般常識」を知ってしまったゆえに
あの時代に戻れないのなら
今の私は、どう行動すればいいの？
「法律」や「一般常識」を逆手にとって
「平和と人権へのパワー」に変えていく知恵を
おっちゃん、私に授けてよ
お願いだから
（2003.3.23）
４７ これ以上
最近テレビを見ると、泣けてくる
どんなに空爆があっても、
地上戦があっても、
所詮は対岸の火事
テレビの中の話
少し前ならそう思うこともできた
だけど私は
身に沁みて感じてしまった
ひとりの人間がこの世からいなくなることの
つらさと悲しさ
そして重たさを
おっちゃんが亡くなって
本当に私、つらかったよ
今だって、悲しいよ
言葉では表現しきれない感情だよ
あの空爆の向こうで
どれほどの人がケガをし
どれほどの人が生命を失い
そしてどれほどの人が
不安と恐怖と心配と
深い悲しみにみまわれているのだろう
テレビを見ていると
心の傷がシクシクうずく
これ以上、悲しみを増やさないで
これ以上、憎しみを増やさないで
これ以上、つらいことを増やさないで
(2003.3.25)
４８ さくら
おっちゃん
団地のさくらがきれいに色づいているよ
毎年さくらの季節になると
近所のスーパーのさくらの木の下で、
ピンクの花びらに見とれたね
尾根緑道にも
お花見のドライブに行ったよね
車の座席を倒して
ふたりで
風に舞う花びらに見とれていたっけね
入院してからも
病院の近くの公園に
さくらを見に行こうよって誘ったのに
「いいや、さくらの花は家に帰ってから見るんだ」って、
がんとして聞かなかったよね
おっちゃん
このまちのさくらが見たかったんだよね
でも、その願いが叶わないままに
逝ってしまったね
おっちゃん
さくらの花がきれいだよ
天国からも、このまちのさくらが見える？
そっちの世界とこっちの世界で手をつないで
ふたりでこのまちのさくらを
たっぷり楽しもうね
ねっ、おっちゃん
（2003.3.30）
４９ なぜかわからないけど
なぜかわからないけど
最近、私の心は穏やかだ
イラクの戦争は長期化し
けが人や死者は増え続けている
支援費制度導入で
明日の生活に途方に暮れている仲間たちが
目の前にいる
そんな状況を知りながら
心が穏やかであることに
後ろめたさを感じなくてもいいよね
私は、穏やかさの上に立って
思う存分、平和を願い
思う存分、反戦を叫び
思う存分、支援費制度の矛盾と戦って行くから
誰にも遠慮や気兼ねをすることなく
自分の直感と良心を信じて行動していくから
おっちゃん、
そっちの世界から
直感のパワーを送ってね
（2003.4.1）
５０ つながり
支援費問題からも
国際紛争からも
とりあえず「安全圏」にいる私
いったい私は、どう行動すべき？
混乱を無視することはできない
根っこでつながっているのだから
混乱に翻弄される必要もない
穏やかさを大切にしたいから
心の底に流れる穏やかさを保ちつつ
混乱と向き合い
渦中の人々とつながっていきたい
解決への道が遠くても
無力感に押しつぶされないよう
仲間とのつながりを
バラバラにされないよう
注意しながら
肉体がなくなってしまったおっちゃんとさえ
確かなつながりが持てるんだから
こっちの世界の人々と
つながれないはずないよね
（2003.4.3）
５１ 「休む勇気」
平和を願い
反戦を叫ぶ根っこにあるものは
「生命が大事」という思い
「生命が大事」の根っこは
まず自分自身の生命を大切にすること
自分の心と体をいたわってあげること
いま「休む勇気」を持つことは
「生命が大事」を実践することだよね
反戦の思いと決して矛盾しないよね
ね、おっちゃん
（2003.4.5）
５２ グリーンスリーブズ
素材屋さんのＭＩＤＩ音楽
何気なく聴いていた曲のひとつが
切れ切れな病院の風景と
もの悲しい感情を呼び覚ます
この曲は何？
病院入り口のチャイム？
ちがう
夕暮れ時
病室の外に流れていたまちの音楽？
ちがう、
電話？
保留メロディ？
そうだ
彼の容態を聞くために
病院に電話をかけ
ナースステーションにつながるまでの
緊張感ともどかしさ
バックにいつも、
この曲が流れていたっけ
明け方
彼の急変を知らせる
病院からの電話
交換台から看護婦さんにつながるまでの
息を詰めていた緊張のひととき
やっぱりこの曲・・・
最近心がとっても穏やかだったのに
たったひとつのメロディが
切れ切れな病院の風景と
もの悲しい感情を呼び起こし
あの日々をよみがえらせた
私の穏やかさは
所詮、うわべだけだったのかな
(2003.4.17)
５３ つらいよ
周期的におそってくるこのつらさを
いったいどうしたらいいのだろう
あのとき、確かにおっちゃんは生きていた
夕暮れどきの病院
にこやかに笑いながら
車いすで飛んできたおっちゃん
脳梗塞から回復して
白壁の陰に人が立っているよと
幻覚を見ながら
とんちんかんなことを言っていたおっちゃん
緩和治療でうつらうつらしながら
やせて小さくなって
寝たきりのベッドで
弱々しい笑顔を向けていたおっちゃん
あの病院の日々
あのとき確かにおっちゃんは生きていた
私を見つめていたおっちゃんの
さまざまな表情がよみがえってきて
私の心を切なくする
そうだよ
おっちゃんは確かにあのとき生きていた
ひとりで生きていくって決めたのに
元気にやっていくって決めたのに
周期的におそってくるこのつらさと
どうつきあえばいい？
(2003.4.17)
５４ つらいことは
つらいことは
恥ずかしいことじゃない
つらい自分が
おかしいわけじゃない
もう１年半もたつのに・・・
いや、まだたった１年半だよ
グルグルグルグル繰り返している私
どれほど時がたっても
つらいものはつらい
そんな自分の心を
抱きしめてあげよう
(2003.4.17)
５５ なんか変？
夜はパソコンはいじらないって決めたのに
真夜中
パソコンで音楽を聴きながら
涙している私って
なんか変？
(2003.4.17)
５６ 目が覚めたら
この目で最期を看取り
この手で遺体を拭き
私の横に乗せて家に連れ帰り
私の采配で葬儀を行い
この手でお骨を拾い
この手で納骨した
この手とこの目で
おっちゃんの肉体を土に帰す
一部始終を仕切り、見送ったというのに
いまはただ、すべてが夢のよう
目を閉じれば
あの日に帰って
おっちゃんの笑顔がある
あのときおっちゃんは
私の側で確かに生きていたのに
いまは私の隣にいない
すべてが夢のよう
この世からあの世への橋渡しには
すべて私が立ち合ったはずなのに
あのときと現在の間には
白い霧がかかったよう
目が覚めたら
何事もなかったようにおっちゃんが
おはようって
声をかけてくれないかな
(2003.4.17)
５７ 天国からの呼びかけ
たくさんある曲の中から
たったひとつのメロディーが
私の心を強く揺さぶり
おっちゃんの表情をよみがえらせる
考えると
とっても不思議
おっちゃん
これって天国から
おっちゃんが呼びかけているの？
私の心にコンタクトしようとしているの？
もしそうなら
大歓迎だよ♪
(2003.4.19)
５８ 笑顔
寝たきりになって
家族の手を煩わせるようになってから
患者の笑顔が消えた
最後まで、笑顔を見ることがなかった
ある本にあった記述
おっちゃんは
最後の最後まで笑顔を絶やさなかったよね
寝たきりになって
幻覚を見ていたときでさえ
病室を出る私のことを
いつも笑顔で送り出してくれたよね
私たちは元気なときだって
人の手を煩わせて生きる障害者さ
動けなくなったくらいじゃめげないよね
「手が使えなくても、本を読みたい」って
最後の最後まで意欲を燃やしていたおっちゃん
おっちゃんは、
最後まで笑顔と意欲を絶やさなかったよね
その笑顔を一番もらったのは私
生み出すきっかけになったのも私
私たち、そのことをめいっぱい誇ろうね
（2003.5.6）
５９ もしも生命が
もしも生命が永遠で
循環し続けるものなら
時間も人生もたっぷりある
そんなに急がず
ゆったり落ち着いて生きていきたい
もしも生命が永遠で
循環し続けるものなら
いつか身体というカラを抜け出して
次の人生に旅立とう
そのとき
親しい人々は
笑顔で送り出してくれるかな
きっと無理だよね
１年６か月たっても
悲しいんだからさ
（2003.6.5）
６０ もう、引き留めないよ
そんなに泣かないでよ
新たな旅立ちができないじゃないか
私は、新しい生命にチャレンジしたいのに・・
身体を抜け出して旅立つとき
私は親しい人たちに
そう語りかけるだろう
おっちゃんは
ボロボロになった身体に別れを告げて
新しい生命の形にチャレンジしたかったんだね
わかったよ
もう引き留めないよ
私は、もう少しこの身体に留まって
この身体をきちんと手入れして
ぴっかぴかに磨き上げて
新しい人生にチャレンジするよ
おっちゃんは新しい身体を手に入れて
次の生命の形にチャレンジしていいよ
もう、引き留めないよ
もう、そんなに泣かないから
心配しないで
次の生命を楽しんでいいよ
でも私が呼んだら
すぐに私の中に戻って来るんだよ
いいね
（2003.6.5）