思いつくままに
メッチャ暗いかも(^^;)
思いつくままに
メッチャ暗いかも(^^;)
１ 人間だから
昨年１２月頃には、生と死を超越した感覚に浸っていた。
いつもおっちゃんが私と共にいて、
おっちゃんのことを思えば、
キラキラわくわくした感覚に浸ることができた。
最近、なかなかその感覚になれない。
忙しさに振り回されているときはいいけど、
ふっと静かに落ち着いたとき、
おっちゃんがそばにいないことが寂しいよ～、つらいよ～って思う。
人をうらやんだり、ねたんだり、そんな心が頭をもたげてくる。
あの頃の「心地よい感覚」は、どこにいっちゃったんだろう。
「そりゃあ、人間だから、仕方ないよ」とは、ある友人の言。
そう、私は人間。
「超人」でなくて人間。
寂しさや、つらさや、羨望や、嫉妬や、罪悪感を
引きずり続けている生身の「人間」。
そんな心の中を、ときどきここに吐き出していきたいと思います。
(03.2.13)
２ 夢
今朝方、夢を見た。
どこかのお店で、店員さんに小声で話をしている夢。
「夫がガンで、あと１か月くらいしか生きられない。
だから、ほしいものは何でも買ってやるんだ」と話している夢。
話をしていて、急に不安になった。
家に帰ったら、おっちゃんが急変していないかって
（なぜか、病院でなくて、家だった）。
不安になったところで、目が覚めた。
いままで夢に出てくるおっちゃんは、いつもさりげなく生きていた。
病気とか死の陰は、みじんもなかった。
初めて、病気のおっちゃんが夢に出てきた。
どうせだったら、夢でいいから、
天国から車いすでシャカシャカ会いに来てくれないかな。
「久しぶりだね、おれは元気だよ」って、会いに来てくれないかな。
(03.2.13)
３ もし「余命１か月」ってわかってたら
おっちゃんは、腎不全の合併症で亡くなった。
亡くなる１か月半ほど前に、
主治医に「もしかしたらガンもあるかもしれないが、
ハードな検査ができないので、確定できない」といわれ、
「余命１か月か１年か」もわからなかった。
もし「余命１か月」ってわかっていたら・・・。
介護休暇をとって、
毎日タクシー使ってお見舞い行っただろうな。
病院近くのホテルに連泊したってよかった。
貯金を使い果たすつもりで、
毎日会いに行く方法を算段しただろうな。
おっちゃんには差額ベッドの個室を取って、
ふたりで水いらすのときを、過ごしただろうな。
タクシー代片道１５０００円×２×２０日間＝６０万円。
個室の差額１５０００円×３０日＝４５万円。
いつもそんな計算が頭を巡っていた私。
「余命１か月」だったら、貯金で十分足りた。
おっちゃんは、まだまだ何年も生きる。
そう信じて、貯金の残りを気にしながらケチっていた自分が悔しい。
(03.2.13)
４ 正夢
２００１年元旦の日記に、次のような記述がある。
おっちゃんは、年末に自分が焼き場で焼かれる夢を見たという。
おばあちゃん（彼の母）のお葬式の影響とは思うが、何となく不吉。
いや、逆夢ということもあるから、逆に長生きするということか？
彼は、９月に退院してから、体調のいい日がない。
今年も、マジまた入院になるんじゃないかと思う。
逆夢なんかじゃなかった。
正夢だった。
(03.2.13)
５ キーホルダーゲーム
病院の売店で見つけた、キーホールダーのテトリス。
褥そうなどの処置で病室の外に出されるとき、
デイルームでゲームしながら時間をつぶした。
人工呼吸器になり、セデーション（鎮静剤）をかけられて意識のないとき、
彼のベッドサイドでテトリスしてた。
いまでも、そのゲームの効果音を聞くと、心は病院にワープする。
自室でテトリスにハマリながら、
ハイケアルームで眠っているおっちゃんの横でゲームにハマっている、
１年３か月前の自分にワープしている。
(03.2.13)
６ 約束
「退院したら、『ゴジラ』の映画を観に行こう」って、
小学生のＹちゃんと約束してたんだよね。
「だから、おっちゃんは絶対に良くなる」って、
Ｙちゃんは信じていたんだよ。
「退院したら、いっしょにすし食いに行こう」って、
職場のＯくんと約束してたんだってね。
呼吸が止まっても持ち直したって聞いたとき、
「おれとの約束を守ってくれるんだ」って、
Ｏくんは嬉しそうだったんだよ。
「体調良かったら、外泊して、家で年越ししよう。
体調悪かったら、個室を取って、病院でふたりで紅白みよう」って、
私と約束してたよね。
だから、クリスマスもお正月もふたりで迎えられるって、
私は楽しみにしていたんだよ。
おっちゃんは、
みんな、みんな、約束を破ったんじゃないか。
ひどいよ、おっちゃん。
おっちゃんのうそつき！
(03.2.14)
７ あと１日
おっちゃんの呼吸が止まったのは、１１月２１日の早朝だった。
その前の晩、私はおっちゃんがほしがっていた万華鏡を、
駅の近くのお店で見つけていたんだよ。
２１日に上京してきた義妹は、
おっちゃんが食べたがっていた合わせ寿司を、
前の晩から用意していたんだよ。
おっちゃんは、その日、
万華鏡を観て、
お寿司を食べて、
義妹や姪たちとおしゃべりをして、
幸せなひとときを過ごせたはずだったんだよ。
そして、その夜、
私たちは病院の前のホテルに泊まっていたんだから、
呼吸が止まっても、すぐに駆けつけられたんだよ。
あと１日、２４時間、呼吸が止まるのを、ずらしてほしかった。
おっちゃんのせっかち！
(03.2.14)
８ もしも時間を戻せるのなら
火曜日と土曜日は見舞いの日。
そう決めていた私。
１１月の初め頃、
「２０日の火曜日、市役所が会議を予定していて、
ほかの団体はその日でいいって言ってるけど、
あなたは病院に行く日だよね」って、同僚に都合を聞かれた。
「いいよ、それなら病院に行くのを１日ずらすから」と、気軽に応えた私。
その日が、おっちゃんが話をできたはずの最後の日になるなんて・・・。
もしも時間を戻せるのなら、「火曜日は絶対に困る」って言い直したい。
もしも時間を戻せるのなら、会議なんてキャンセルして、
病院に行って、おっちゃんと最後の会話を楽しみたい。
おっちゃんが話のできたはず最後の日。
会議を優先してしまったことを、悔やみ続けている私。
きっと一生、後悔し続けるだろう。
(03.2.14)
９ いまの私
「身近な人を失った人」は、大勢いる。
そうでない人を見つける方が難しいと
昔、お釈迦様は言ったという。
みんな、みんな、耐えているの？
つらい気持ちを引きずりながら
顔で笑って心で泣いて
毎日の生活をこなしているの？
いまの私のように。
(03.2.14)
１０ つらければつらいほど
大好きな人を失うことって、
こんなにもつらくて、
こんなにもひきずり続けるものなの？
でも、きっと
いまがつらければつらいほど
私たちは、幸せだったんだね。
(03.2.14)
１１ 間に合ったもの
間に合わなかったもの
万華鏡、合わせ寿司、司馬遼太郎の本、書見台
間に合ったもの
おっちゃんが見たがっていた手塚治虫のＤＶＤ、
新幹線で名古屋からとんぼ返りしてきた義妹
(03.2.15)
１２ ダイレクトメール
おっちゃん宛に届くダイレクトメール
「亡くなったから」って、伝えたはずなのに・・・
「いい加減にしてよ、つらいんだから」って文句の電話をしようか
それとももうしばらく
郵便だけでも、おっちゃんを生かしておいてあげようか
ダイレクトメールが届くたびに
迷っている私
(03.2.15)
１３ いつか
「ノストラダムスの大予言」とか
「○年後に大地震が来るかも」とか
戦争が始まるとか
昔はそんな話が恐くて仕方なかった
死ぬのはいやだ、
「火の鳥」の血を飲んで永遠の生命がほしいって、
マジに思っていた
いまは、昔ほど恐くはない
いつか私が死んだら
きっとおっちゃんが、嬉しそうな顔をして
車いすで、飛ぶようにして
迎えに来てくれるだろうから
まだ動けてた頃
病院でいつもそうしてくれてたように
(03.2.15)
１４ 「もう、落ち着いた？」
「もう、落ち着いた？」
おっちゃんが亡くなって２，３か月たったころ
よく、そう聞かれた
落ち着いてるはずないじゃん！
確かに、
もう、片道２時間かけてお見舞いに行く必要はなくなったよ
お葬式も終わったし
事後の手続きも一通り終わったし
仕事もふつうに行っているし、
確かに、
生活は落ち着いたよ
でも、心の中はメチャクチャ
仕事だけは義務的にやってるけど
大好きだったスキーも、旅行も、
何にもやる気が起きないよ
何を見てもおっちゃんの気配につながって
おっちゃんといっしょの感覚に浸って
ただただボーっとしながら、涙するだけ
「もう落ち着いた？」なんて聞かないで
私は全然、落ち着いてなんかいないんだから！
(03.2.15)
※そんなふうに思っていた自分を、１年２か月たったいま
ちょっぴり、振り返る余裕ができてきました
あの頃より、少しは「落ち着いた」ようです
１５ 遊歩道
私の大好きな遊歩道
鯉や、水鳥や、スズメや、鳩
原っぱで走り回る犬
生命の息吹がいっぱい感じられる緑のなかを
電動車いすで走るのは気持ちいい
私の大好きな場所
久しぶりに、その遊歩道を走った
なぜかおっちゃんの気配をいっぱい感じた
おっちゃんといっしょに来たことなんて、いちどもなかったのに
川べりの木の枝に、白鳥がとまっていたよ
やぶの中に、捨てられた子猫がたくさんいて、
散歩してた人が餌をあげていたよ
藪蚊がいっぱい追っかけてきて、
むき出しの足をメチャクチャ刺されちゃったよ
空を見上げて走っていたら
電線にスズメがいっぱいとまっていて、
すっごく爽快だったよ
遊歩道で見たこと、感じたこと
小さなひとつひとつを
私は何でもおっちゃんに話していたんだね
「お帰り、楽しかった？」といってくれるおっちゃんの笑顔を
心に描きながら
夕暮れの道を家路に向かっていたんだね
鯉、水鳥、スズメ、走りまわる犬たち
小さな生命の息吹の中に、おっちゃんの気配を感じて
私はしばし、おっちゃんといっしょの世界にワープしていた
(03.2.15)
１６ 早く来て
脳梗塞から回復してまもないころ
病院から職場に電話が来た
「ご主人が話したいことがあるから、
なるべく早く来てくださいと伝言を頼まれて」
という、看護婦さんの明るい声
仕事を早めに切り上げ、病院に急いだ
「話って何？」
「いろいろ話したかったけど、顔を見たらなんだか忘れちゃった」
つまり、早く私の顔が見たかっただけなんだよね
そうだったんだよね、おっちゃん
(03.2.16)
１７ ありがとう
あの頃おっちゃんは、
口をぽかっと開けて
とろとろ眠ってばかりいた
じゃあ、ゆっくり寝てもらおうと
私が見舞客とデイルームに行くと
すぐに看護婦さんが探しにやってきた
「ご主人が呼んでます」って
別に用事があるわけじゃないのに
ただ、私にそばにいてほしかったんだよね
ありがとう、おっちゃん
そんなにも私を頼ってくれたこと
何にもしてやれない私だったのに
ただただ私がそばにいることを喜んでくれたおっちゃん
心から感謝しているよ
(03.2.16)
１８ ごめんね
「病院に来られる日は、もっと早く来てよ。
おれ、不安なんだから」
私と言葉を交わすことのできた最後の日
私の顔を見るなり、おっちゃんが言った言葉
いまも私の耳に焼き付いている
おっちゃん、不安だったんだね
何も話さなくても、
私がそばにいるだけで不安が紛れることを知っていたのに
いっぱいいっぱい
ひとりぼっちにしちゃったね
病院スタッフの数も少ない日曜日
ずっと私の名前を呼び続けていたって
看護記録にあったよね
おっちゃん、さびしかったんだね、不安だったんだね
ごめんね、ごめんね
私も、もっともっとたくさんそばにいたかったよ
ほんとうに、寂しい思いをさせて、ごめんね
(03.2.16)
１９ ハイケアルーム
おっちゃんが亡くなってしばらくは
おっちゃんがまだ病院にいるような気がしてならなかった
死んだなんてウソだ！
おっちゃんはいまも
病院のベッドで、
不安そうな顔をして
私が来るのを待っている
電車を乗り継ぎ、品川駅で降りて
坂を上って
右に曲がればいつもの病院
３階西病棟に行って、
看護婦詰め所の脇を通って
ハイケアルームのカーテンをひとつひとつめくって、
おっちゃん、どこにいるの？と探し回りたかった
ビックリしている看護婦さんや患者さんの姿が浮かんだ
ハイケアルームは重症な患者さんばかりだから
おどろかしちゃいけないという理性が
おっちゃんを探しに行きたかった自分を
かろうして押さえていた
(03.2.16)
２０ 病院への道
電車を使っておっちゃんの病院に行くには
三通りの方法がある
小田急線に乗って、新宿から山手線に乗り換えて品川駅
これが標準的な行き方
横浜線に乗って、横浜駅で向かいの京浜東北線に乗り換える
料金は少し高くなるけど、品川駅には少し早く着く
急ぎたいときはこの行き方
三つ目は
小田急線で新宿に出て、都営大江戸線で赤羽橋
そこから病院まで
電動車いすで３０分くらいかかるけど
晴れた日は街なかを走るのが気持ちいい
何よりも大江戸線は、手帳でタダ乗りできて
バリアフリーだから駅員さんを呼ばずにすむのが嬉しい
晴れた青空の下
国道１号線沿いを電動車いすで突っ走りながら
もうすぐおっちゃんの笑顔に会えるとわくわくしていた私
いまも、心の中で
青空と車の騒音に包まれながら
赤羽橋から病院までの道のりを走っている
あの頃の自分にワープして
もうすぐおっちゃんの笑顔に会えると
わくわくしている
(03.2.16)